実際に足を運んだことがないにもかかわらず、モニタを通じての経験が日々蓄積されていく…。この奇妙な撮影行為は、わたしたち現代人が生きている世界そのものの奇妙さにも通じています。電子ネットワークのさらなる充実によって、映像はますます手軽に、どこででもアクセスできるようになりつつあります。現代社会を生きる人間の目に映る風景は、大半をそうした映像に置き換えられつつあるといってもよいでしょう。そうした現代を生きる人間のひとりとして、原田は、TVモニタのなかを日々、凝視し続けているのです。
モニタのなかに浮かんでは消え去っていく光景に目を凝らすという行為。それは、かつてドキュメンタリー写真家が、街角や戦場で、目の前を流れ去っていく光景に懸命に目を凝らしていたのとも共通する行為です。表面的にはモニタという、写真の被写体としては奇をてらったかのような対象を扱いながら、リアリティを重視するオーソドックスなドキュメンタリー写真の方法論に拘る原田の作品は、いつしかこれまでの写真にはない不可思議な浮遊感を漂わせると同時に、映像による代替というかたちで頼りなく蝕まれていくリアリティを告発するという意味において、きわめて重要な重みを身につけはじめているはずです。
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